― 生きる意欲、脳、生活リズム、人とのつながり ―
「これからの時間をひらく、日々の習慣」第5回
生きがいというと、大きな夢や立派な目標を思い浮かべるかもしれません。
社会のために何かを成し遂げること。
仕事で評価されること。
組織の中で役を任されること。
けれども、生きがいは、必ずしもそれほど大きなものでなくてよいのではないでしょうか。
庭の花に水をやり、つぼみが開くのを楽しみにすること。
いつもの道を歩き、家に帰って、ほっとひと息つくこと。
ペットに食事を用意し、そばで眠る姿を眺めること。
誰かと話して、ほんの少し気持ちが通じたと感じること。
そんなとき、心の中に小さな明かりがつくように感じることがあります。
今回は、生きがいを大きな理想として掲げるのではなく、暮らしの中にある「小さな灯り」として、読者の皆さんと一緒に探してみたいと思います。
生きがいと役割は、同じではない
私たちは、家庭、仕事、地域、さまざまな集まりの中で役割を担ってきました。
役割を任されることや、誰かに必要とされることが、生きがいにつながることはあります。
しかし、役割そのものが生きがいになるとは限りません。
自治会長や会の代表といった役は、そのとき必要な仕事を担い、やがて次の人へ渡していくものです。
長く務めた人の経験は大切ですが、「昔からこういうものだ」と考えが固定されると、新しい人の意見や、新たな課題への対応が難しくなることもあります。
表彰されることや、長く役を続けることが喜びになる場合もあるでしょう。それを否定する必要はありません。
けれども、役を失うことが、自分の価値を失うことになってしまったら、少し苦しくなります。
役割は、社会や組織の中で担うもの。
生きがいは、自分の心の中に灯るもの。
役を離れても、自分の中に残り、次の行動へ向かわせてくれるものが、生きがいなのかもしれません。
人の役に立たなくてもよい
生きがいを語るとき、「人の役に立つこと」がよく挙げられます。
誰かに喜んでもらうことや、気持ちが通じることは、確かに心を温めます。
お互いを大切にし、認め合う中で何かをする。
その行動が相手の喜びにつながり、その温かさが自分にも返ってくる。
そうした経験は、自分もここにいてよいのだという感覚を育ててくれるでしょう。
一方で、人の役に立たなければ、自分には価値がないわけではありません。
好きな音楽を聴く。
本を読む。
花を見る。
一人で静かにお茶を飲む。
誰かから評価されなくても、その時間に心が動き、自分が自分に戻れるのであれば、それも大切な生きがいです。
生きがいは、立派さや生産性を競うものではありません。
お金や勝つことも、生きがいでしょうか
お金を増やすこと、競争に勝つこと、議論で相手を言い負かすことに、大きな喜びを感じる人もいるでしょう。
それが自分の生きがいだと言われれば、外から簡単に否定することはできません。
ただ、その生きがいが、
自分の心や体を長く支えてくれるか。
誰かを傷つけることでしか成り立たないものではないか。
失ったとき、自分の価値まで失ったように感じないか。
ときどき立ち止まって考えてもよいのかもしれません。
Ageless Journeyでは、自分だけでなく、周囲の時間も少し温かくするような生きがいを大切にしたいと思います。
生きがいは、脳や体に何をしているのでしょう
「生きがいがあれば病気にならない」「脳が若返る」と言い切ることはできません。
一方で、人生の目的や意味を感じている人は、その後の健康状態や認知機能が比較的良好だったという観察研究があります。
人生の目的意識が高い人では、長期的に認知機能が保たれる傾向や、歩く速さ、握力などが低下しにくい傾向が報告されています。ただし、生きがいそのものが直接体を強くしたと断定できるわけではなく、健康な人ほど生きがいを感じやすいという逆方向の影響も考えられます。
それでも、生きがいには、暮らし全体を動かす力がありそうです。
花に水をやるために、朝起きる。
犬の散歩に出るために、外へ出る。
誰かと会うために、身支度をする。
好きなことを学ぶために、頭を使う。
明日の楽しみがあるから、生活のリズムが整う。
生きがいが薬のように直接働くというよりも、人を起こし、動かし、考えさせ、人や世界へつなぎ直すことで、体と心を支えているのかもしれません。
人とのつながりが乏しく、孤独を感じる状態は、心身や認知機能の健康に影響する可能性があります。反対に、気持ちを交わせる人や、安心して過ごせる場所があることは、暮らしを支える土台になります。
ペットが灯してくれるもの
ペットが生きがいになるという感覚も、よく分かります。
食事を用意する。
散歩へ連れて行く。
体調を気にかける。
名前を呼ぶ。
そばにいる温かさを感じる。
そこには、生活リズム、身体活動、触れ合い、世話をする喜びがあります。
研究では、ペットが孤独感や心の健康に良い影響を与える可能性が報告される一方、結果は一様ではありません。飼育には費用や体力、将来の世話という責任も伴います。
それでも、言葉を使わずに気持ちが通じたと感じる時間や、ただ一緒にいることで心が緩む時間は、大切な生きる喜びになり得ます。
生きがいをつくる六つの小さな要素
生きがいには、いくつかの小さな要素が重なっているように思います。
心が少し動くこと。
自分から何かに関わること。
昨日より少し進んだという手応え。
明日や次の季節への楽しみ。
人や動物、自然との温かなつながり。
そして、そのままの自分でいられる時間。
すべてを持つ必要はありません。
花を育てることには、心が動くこと、世話をすること、花が咲く未来への楽しみがあります。
歩くことには、体を動かすこと、季節との出会い、歩いたあとの安堵があります。
人と食事をすることには、味わうこと、会話、笑顔、気持ちのつながりがあります。
生きがいは一つでなくてもよく、途中で変わってもよいのです。
小さな灯りを、一緒に探す
「生きがいを見つけなければならない」と思うと、それ自体が重荷になることがあります。
大きな目標が見つからない日があっても構いません。
今日、少し心が動いたことはなかったでしょうか。
窓から見えた空。
誰かの言葉。
道端に咲いた花。
おいしかった一杯のみそ汁。
歩いたあとに感じた、ほっとする時間。
その小さな感覚を、すぐに役に立つか、価値があるかで判断せず、少し大切にしてみる。
気になった花に水をやる。
続きを読みたい本を手元に置く。
また会いたい人に、ひと言連絡する。
明日の散歩のために、靴をそろえる。
そんな小さな行動が、心の灯りを育ててくれるかもしれません。
生きがいは、役職や肩書ではありません。
大きな夢や、人から与えられる評価だけでもありません。
心に小さな灯がともり、もう一度、暮らしや人や世界へ向かってみようと思えること。
それが、生きる喜びの入口なのかもしれません。
その灯りが、これからの時間を、ほんの少し明るく照らしてくれたらうれしく思います。
これからの時間をひらく、日々の習慣シリーズ
これからの時間を自分らしく、意欲を持って歩んでいくために、日々の暮らしの中でできる小さな習慣を考えるシリーズです。
お酒との距離、歩く力、口腔ケア、生きがい、朝の過ごし方などを通して、体と心、そして人とのつながりを整えていきます。
完璧な生活を目指すのではありません。
今の自分にできることを一つ見つけ、できなかった日があっても、また戻ってくる。
その小さな積み重ねが、これからの時間をひらいていくのだと思います。
「これからの時間をひらく、日々の習慣」シリーズ
第1回『健康を整え、意欲をそだて、もう一度開いていくために』 ー人生後半の旅を支えるために、お酒・タバコ、運動、口腔ケア、生きがいを見直し、健康と意欲を育てる日々の習慣を考えるー
第2回『お酒は本当に少量なら体によいのか』
— これからの時間をひらくために、アルコールとの距離を考える —
少量飲酒、発がん性、依存、判断力低下、睡眠、転倒、人間関係への影響を整理します。飲む人を責めるのではなく、人生後半の自由を守るために、アルコールとの距離を考える記事です。
第3回『歩く力は、40代から静かに変わる』
— ロコモのはじまりに早く気づくために —
ロコモ、サルコペニア、フレイルの関係を整理し、筋力だけでなく、栄養、外出、人との関わりから考えます。毎日の歩行、たんぱく質、社会参加など、暮らしの中でできる予防を紹介します。
第4回『口腔ケアは、食べる・話す・笑う力を守る』
— 噛む力・飲み込む力・話す力を守るオーラルケア —
歯、歯周病、入れ歯、噛む力、飲み込む力、オーラルフレイルを扱います。口の健康が、食事、会話、人とのつながりに関わることを伝えます。
第5回『生きがいは体に何をしているのか』
— 生きる意欲、脳、生活リズム、人とのつながり —
生きがいを、精神論だけでなく、生活リズム、外出、会話、脳への刺激、役割意識として考えます。大きな夢ではなく、小さな灯りとしての生きがいを扱います。
第6回『これからの時間を整える朝習慣』
— 散歩、朝食、歯みがき、日光、挨拶、小さな予定 —
朝の時間を、未来の自分を支える習慣として整える実践記事です。読者が「明日の朝から少しやってみよう」と思える内容にします。


コメント