『一人で暮らすことと、孤独に生きることは同じではない』ひとりの暮らしから、これからをひらく 第1回

暮らし・学び・生き方

ひとりの暮らしから、これからをひらく

近所を歩いていると、一人で暮らしている方が思っていた以上に多いことに気づきます。

朝の散歩で顔を合わせる人。
買い物の帰りに一人で歩く人。
電車の向かい側に座っている人。

その人が誰かと暮らしているのか、一人で暮らしているのか、外からは分かりません。

けれど現在の日本では、一人暮らしは、もう一部の人だけの特別な暮らし方ではなくなっています。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、単独世帯は2020年の38.0%から、2050年には44.3%に増えると見込まれています。将来は、世帯の半数近くが一人暮らしになる可能性があります。

一人になったとき、すぐに前を向けなくてもよい

一人暮らしを始める理由は、人によって異なります。

進学や仕事をきっかけに、自ら一人暮らしを選ぶ人もいます。
結婚しない暮らしを選ぶ人もいます。

一方で、家族との死別や離婚、子どもの独立、生活環境の変化などによって、思いがけず一人になる人もいます。

長く一緒に暮らしていた人がいなくなったとき、部屋の静けさは、それまでとはまったく違って感じられるかもしれません。

帰宅しても、声をかける人がいない。
食事をしても、今日あったことを話す相手がいない。
夜に体調が悪くなったとき、一人で判断しなければならない。

「これから、すべて自分でしなければならないのだろうか」

そう思い、寂しさや不安を感じるのは、自然なことだと思います。

その気持ちを、すぐに前向きな言葉で覆う必要はありません。

一人になったばかりのときに、「自由になったのだから楽しみましょう」と言われても、心がついていかないことがあります。

寂しいときは、寂しい。
不安なときは、不安である。

まずは、その気持ちを否定しないことが大切なのだと思います。

一人で暮らすことと、孤独に生きることは違う

一人で暮らしていても、人とのつながりや生きがいを感じながら、自分らしく暮らしている人はたくさんいます。

反対に、家族と同じ家で暮らしていても、生活時間が違ったり、会話が少なかったり、気持ちを理解してもらえないと感じたりして、孤独を抱えている人もいます。

家の中に誰かがいることと、心がつながっていることは、必ずしも同じではありません。

内閣府は、毎年「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」を行っています。孤独感は、世帯の形だけで決まるものではなく、死別、病気やけが、退職、生活環境の変化、人間関係など、さまざまな出来事と関係しています。

一人暮らしは孤独を感じやすくなる一つの要因ではあります。

しかし、

一人で暮らしているから、孤独である。
家族と暮らしているから、孤独ではない。

と単純に分けることはできません。

大切なのは、どのような世帯であるかだけでなく、必要なときに誰かや社会とつながれるか、自分らしく安心して暮らせているか、ということなのでしょう。

家族が自然に補っていたもの

家族と暮らしているときには、家族が担っていることに気づかない場合があります。

顔色や声の変化から、体調に気づいてくれる。
病院へ行くかどうかを相談する。
荷物を受け取る。
電球を交換する。
食事や生活時間を共有する。
災害時に声をかけ合う。
入院や契約などの場面で、一緒に考える。

どれも一つひとつは小さなことです。

しかし一人になると、それらをすべて自分で担わなければならないように感じ、大きな不安になることがあります。

実際には、家族の役割を一人の誰かに代わってもらう必要はありません。

健康のことは、かかりつけ医や相談窓口。
生活の困りごとは、地域や民間サービス。
緊急時の連絡は、友人や親族。
日常の小さなつながりは、近所の人や行きつけの場所。

役割ごとに少しずつ分け、人や社会、制度、技術を組み合わせて補うことができます。

それでも、何から考えたらよいか分からないことはあるでしょう。

そんなときは、漠然とした不安を一度書き出してみると、その輪郭が見えてくるかもしれません。

食事のこと。
病気やけがのこと。
住まいや災害のこと。
お金のこと。
人とのつながりのこと。

すべてを一度に解決する必要はありません。

「今はこれが少し心配だ」と気づくだけでも、次に知っておきたいことが見えてきます。

同じように暮らしている人は、たくさんいる

一人暮らしに不安を感じたとき、自分だけが社会から離れてしまったように感じることがあるかもしれません。

けれど、電車の同じ車両に乗っている人の中にも、一人で暮らしている人が何人もいるでしょう。

家族を亡くした寂しさを抱えている人。
自分の時間を大切にしながら暮らしている人。
病気への不安を持ちながら、毎日の生活を整えている人。
一人の静けさを心地よく感じている人。

それぞれの事情は違っても、みんな、その人なりの形で暮らしています。

「私だけではない」

そう思えることが、不安をすべて消してくれるわけではありません。

それでも、少しだけ心を軽くしてくれることはあると思います。

一人暮らしには、自由もある

一人暮らしには不安や不便だけでなく、一人だからこそ持てる自由もあります。

自分の時間を自分で決められる。
食べたいものを、自分の体調や好みに合わせて選べる。
好きな本を読み、好きな音楽を聴き、疲れたら休める。
誰かの生活時間に合わせすぎず、自分の思考や感覚を暮らしの中心に置ける。

何か特別な楽しみを見つけなければならないわけではありません。

お茶を飲みながら窓の外を見る。
散歩の途中で、季節の変化に気づく。
静かな部屋で、何も考えずに過ごす。

そんな時間に、ほっとする日もあるでしょう。

安心の土台を少しずつ整えていけば、一人で暮らすことの自由は、日々の小さな豊かさにつながっていくかもしれません。

「ひとりの暮らしから、これからをひらく」シリーズについて

このシリーズでは、一人暮らしを寂しさや不安だけで捉えるのではなく、食事、健康、病気やけが、人とのつながり、旅、住まい、お金、AI、将来への準備などを、一つずつ考えていきます。

知っていることで、自分を守れることがあります。
少し準備しておくことで、大きな不安を抱えずに済むこともあります。

そのため、読者の気持ちに配慮しながらも、知っておいてほしいこと、できれば行っておきたいことは、根拠のある情報とともに、曖昧にせずお伝えしていきます。

ただし、一人暮らしの安心を、本人の努力だけに委ねることはできません。

友人や近所の人、地域、医療、行政、民間サービス、AIや見守り技術など、さまざまな力を組み合わせて、一人で暮らしても安心や尊厳が失われない社会をつくる必要があります。

一人で何でもできるようになることを目指すのではありません。

必要な情報を知り、できることを一つずつ整え、人や社会の力も自然に借りていく。

その安心の上に、一人だからこそ持てる自由や静かな時間、小さな楽しみを見つけていく。

一人で暮らしている人にも、これから一人になる可能性のある人にも、このシリーズが、これからの暮らしを少しずつひらくきっかけになればと思います。

「ひとりの暮らしから、これからをひらく」全11回

ひとりの暮らしから、これからをひらくシリーズ

一人で暮らすことを、寂しさや不安だけで捉えるのではなく、必要な情報や備えを知り、人や社会の力も借りながら、自分らしい安心と自由を整えていくシリーズです。

第1回 一人で暮らすことと、孤独に生きることとは同じではない                          増えている単身世帯の現状や、家族と暮らしていても孤独を感じることがある「家庭内の孤独」に触れます。一人暮らしを特別な境遇としてではなく、誰にとっても身近になり得る暮らしの形として考える、シリーズの入口です。
第2回 一人分の食事を、簡単に、豊かに整える
総菜、冷凍、宅配なども利用しながら、自分のために食べる気持ちを大切にし、無理のない食事を考えます。

第3回 一人の食卓に、寂しさが座ってきたら         一人の食卓でふと寂しくなったとき、その気持ちを受け止め、食べる力を手放さないための小さな知恵を考えます。

第4回 病気やけがのとき、誰に何を頼るかー準備中
体調不良、入院、退院後などに、一人ですべてを抱えず、医療、友人、地域、行政などへ役割を分けて頼る方法を考えます。

第5回 細いつながりを、暮らしの中に何本か持つー準備中
月に一度連絡する人、散歩で挨拶する人、行きつけの店で少し話す人など、日常にある小さなつながりを見つめます。深い関係を無理につくらず、役割の異なる細いつながりを何本か持つ意味を考えます。

第6回 一人の時間を楽しむ――静けさ、学び、趣味ー準備中
一人の時間を、何かで埋めなければならない時間としてではなく、自分のペースや静けさを味わう時間として考えます。読書、散歩、音楽、学び、趣味、そして何もしない時間も、一人で暮らす自由の一部です。

第7回 一人旅は、小さな自由を取り戻す旅ー準備中
誰かの予定や好みに合わせず、自分の関心や体調に応じて旅を組み立てられる一人旅。その魅力と、移動、荷物、宿泊、安全、体調不良などへの備えを、身近な場所への小さな旅から考えます。

第8回 一人暮らしの住まいを、小さく安全に整える ー準備中
階段、浴室、室温、修繕、防災、買い物や移動のしやすさなどを見直します。今の住まいを安全に整える方法と、より暮らしやすい場所へ移る選択の両方から、安心できる住環境を考えます。

第9回 一人の家計、自由を守る固定費と備え ー 準備中
一人になっても大きくは減らない住居費、光熱費、通信費、車などの固定費を整理します。ただ切り詰めるのではなく、病気や住まいの修繕にも備えながら、自分らしい自由を守る家計を考えます。

第10回 AIは、一人暮らしの伴走者になれるかー準備中
健康管理、見守り、買い物、移動、行政手続き、情報整理、会話など、AIやロボットが一人の暮らしを支える可能性を考えます。人との関係に代わるものではなく、人や社会の不足を補う伴走者としての役割を探ります。

第11回 最後まで自分らしく暮らすための小さな準備ー準備中
緊急連絡先、医療や介護の希望、住まい、持ち物、ペット、契約、デジタル情報、死後の手続きなどを少しずつ整理します。終活を終わりの準備としてではなく、今の不安を減らし、これからを安心して暮らすための準備として考えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました