この記事は「人生後半の自由を守るマネーリテラシー」シリーズの第3回です。
今回は、生命保険、医療・がん保険、自動車保険などを通して、人生後半のお金との付き合い方を考えます。
不安の数でなく、不足する金額から考える
病気、がん、事故、火災。将来を考えると、保障を増やしたくなることがあります。
けれど、すべての不安を保険で埋めようとすると、保険料が今の暮らしを圧迫してしまいます。
大切なのは、公的な保障を知る。預貯金で負担できる範囲を考える。それでも家計では受け止めきれない損失を、民間保険で補う。今回は、保険を選ぶときの基本的な順番を考えます。
不安になるのは自然なこと
家族に迷惑をかけたくない。病気や事故で、お金に困りたくない。住まいを失いたくない。 こうした不安は自然なものです。
ただし、不安の数だけ保障を増やすと、食費を切り詰める。住まいの修繕を先送りする。受診や人との交流を我慢する。すぐに使える預金が残らない。ということも起こります。
将来の安心のために、現在の安心を失わない。これを保険選びの出発点にしたいと思います。
公的保障、預貯金、民間保険の順で考える
保険を考えるときは、三つに分けると分かりやすくなります。
まず、公的保障
公的医療保険、高額療養費制度、遺族年金、障害年金、介護保険、傷病手当金などです。
まず、すでに何が守られているかを知ります。
※傷病手当金とは、会社員などが業務外の病気やけがで働けず、会社から十分な給与を受けられない ときに、健康保険から生活費の一部が支給される制度です。
次に、預貯金
入院時の食事代、交通費、小さな修理、免責金額、短期間の収入減などは、すぐ使える預貯金が役立ちます。
民間保険
民間保険は、公的保障(高額療養費制度など)と預貯金を使っても支えきれず、その後の生活が苦しくなってしまうような出来事に備えるものです。
公的保障を確認する → 預貯金で負担できる額を考える → 残る不足を民間保険で補う
という順番です。
生命保険は、残された人の不足額を考える
生命保険は、残された家族の生活を支えるためのものです。
大切なのは、亡くなった後、誰が、何年間、いくら不足するのかを考えることです。
小さな子どもがいる家庭や、一人の収入に頼る家庭では、大きな死亡保障が必要になる場合があります。
一方で、子どもが独立し、配偶者にも年金や収入があり、預貯金もあるなら、保障は小さくできるかもしれません。
単身者では、葬儀、納骨、住居や家財の整理などを預貯金で準備できれば、大きな死亡保障が必要とは限りません。
また、保障と貯蓄が一体になった保険商品だけで備えるのではなく、死亡保障は必要な期間だけ保険で持ち、将来の資産は別に育てる方法もあります。
医療・がん保険は、制度で賄われない費用を見る
保険診療には公的医療保険が適用され、高額療養費制度もあります。
ただし、次の費用は別に考える必要があります。
差額ベッド代。入院時の食事代。交通費や日用品。保険外診療。先進医療の技術料。仕事を休むことによる収入減。
医療保険を考えるときは、
公的保障を使った後、わが家では何が不足するかを見ます。
がん保険も同じです。
「がんが怖いから入る」のではなく、「がんになったとき、何のお金が不足するのか」と考えます。
医療費より、治療中の収入減や生活費が問題になる家庭もあります。その場合には、入院日額より、一時金の方が使いやすいこともあります。
※一時金とは、がんと診断されたときなどに、まとまった金額を一度に受け取れる給付金です。入院日数に関係なく、治療中の生活費や収入減などに使いやすい特徴があります。
一方、がん治療中に必要となる費用を預貯金でまかなえ、すでに加入している医療保険にも、がんによる入院や手術への保障が含まれている場合には、さらにがん保険を追加する必要性は小さくなるかもしれません。
※がん診断一時金、抗がん剤治療、放射線治療、支払日数無制限などは、一般の医療保険にはなく、がん保険やがん特約にだけ含まれる場合があります。契約書で「何が重なり、何が追加されるのか」を確認することが大切です。
自動車保険は、価格より守る順番を見る
自動車保険では、割引や保険料の安さが注目されがちです。けれど、最初に考えるのは価格ではなく、何を守るかです。
まず、他人の命と財産。次に、自分と同乗者の暮らし。そのうえで、自分の車をどこまで守るかです。
死亡事故や重い後遺障害を伴う事故では、個人の預貯金では負担できないほど高額な賠償になることがあります。店舗や建物、電車などに損害を与えた場合には、対物事故でも賠償額が大きくなる可能性があります。
そのため、任意保険の対人賠償と対物賠償は、原則として無制限を基本に考えたい補償です。
自分の車を守る車両保険は、すべての人に同じように必要とは限りません。車が新しいか。ローンが残っているか。全損しても預貯金で買い直せるか。車が生活に欠かせないかで考えます。
車同士の事故では、相手の過失割合に応じた分は相手側から補償されます。しかし、自分の過失分は、自分の車両保険や預貯金で負担します。
弁護士費用特約や個人賠償責任特約は、役立つことの多い特約です。
弁護士費用特約は、自分に過失のない事故で、保険会社が相手との示談交渉を行えない場合などに役立ちます。
個人賠償責任特約は、自転車事故など、日常生活で他人に損害を与えた場合に備えるものです。
ただし、これらは一つの契約で家族も補償されることがあり、複数台の自動車保険や火災保険との間で重複している場合があります。家計では負担できない大きな賠償や生活への影響をしっかり守り、重複している特約や、自分で負担できる部分を整理する。
その順番で考えることが、自動車保険を上手に使うということです。
火災・地震保険は、被災後の生活を考える
火災保険は、契約によって風災、水災、雪災、盗難なども対象になります。
確認したいのは、
建物だけでなく家財も対象か。自宅に水災リスクがあるか。免責金額はいくらか。被災後、どこで暮らすかという点です。
また、通常の火災保険では、地震による火災や倒壊は原則として補償されません。地震への備えは地震保険を別に考えます。
目的は、家を完全に元へ戻すことだけでなく、被災後の暮らしを立て直すことです。
特約は、多いほど安心とは限らない
複数の保険に、似た保障が付いていることがあります。
自動車保険と火災保険の個人賠償責任特約。
家族の複数の車に付いた弁護士費用特約。
医療保険とがん保険の重複。
重複しても、損害額以上を何重にも受け取れるとは限りません。
ただし、家族の範囲や補償条件は契約ごとに違うので、確認せずに外さないことも大切です。
保険会社や代理店に、誰が、どの事故で、いくら受け取れるのかを確認しましょう。
月額ではなく、年間保険料を見る
保険料は月額で見ると、小さく感じます。
しかし、すべての保険を合計すると、大きな固定費になっていることがあります。
まず年間保険料を出し、今後何年払うかを考えます。
年間24万円なら、10年で240万円です。
その金額で、本当に家計では受け止められない損失を守れているかを見直します。
今日できる小さなアクション
すべての保険証券や契約者ページを集め、次の四つだけ書き出してみましょう。
・年間保険料
・何が起きたときに支払われるか
・いくら支払われるか
・ほかの保険と重複していないか
そして、
この保険がなかった場合、その損失を預貯金で負担できるだろうか
と考えます。
分からなければ、次のように尋ねます。
「この保険は何を守るものですか」「公的保障を使った後、何が不足しますか」「ほかの契約と重複していませんか」こうした質問ができることも、マネーリテラシーです。
おわりに
保険を減らすのではなく、役割を整える
保険は、暮らしを守る大切な仕組みです。しかし、不安の数だけ保障を増やすと、今の暮らしが細ってしまいます。
公的保障を知る。預貯金で負担できる範囲を考える。家計では耐えられない損失だけを保険で守る。
大切なのは、何を公的保障で支え、何を預貯金で備え、何を民間保険に任せるのかを整理することです。安心とは、保険証券の数ではありません。何か起きたとき、暮らしをどう立て直すかが見えていること。
それが、Ageless Journeyで考えたい備えです。
このシリーズについて
人生後半の自由を守るマネーリテラシーシリーズ
「その支出は、これからの人生を支えていますか」をテーマに、見栄や不安からの支出を選び直すための考え方を扱います。
第1回 人生後半の自由を守るマネーリテラシー『見栄と不安からの支出を選び直す』
第2回 高い車が悪いのではない。固定費化は、自由を削る。見栄ではなく、人生を運ぶ車を選ぶ
第3回 保険は安心を買うもの、入りすぎると暮らしを削る。
第4回 投資信託(インデックスファンド)は味方にもなる。手数料には注意
第5回 家は建てた後もお金がかかる
第6回 お墓・お寺・葬儀にかかるお金


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