― 暴落と回復の歴史から考える、持ち続ける力 ―
株式市場の長期チャートを見ると、多少の上げ下げを繰り返しながら、右肩上がりに成長しているように見えます。
「それなら、広く分散されたインデックスファンドを買って、長く持っていればよい」
インデックス投資の考え方は、言葉にすればとても簡単です。
しかし、実際に続けることは、それほど簡単ではありません。
株価が上昇しているときには、長期投資を続けることは難しくありません。問題は、経済危機や感染症、戦争、金融不安などによって、資産額が大きく減ったときです。
過去の市場は、暴落から何度も回復してきました。しかし、その回復を自分の資産で待つためには、知識だけでなく、ある種の「胆力」が必要になります。
株式市場は、毎年順調に上がるわけではない
インデックス投資では、長期的な平均収益率がよく紹介されます。
しかし、実際の値動きは、毎年同じように数%ずつ上昇するものではありません。
大きく上がる年もあれば、ほとんど動かない年もあります。もちろん、大きく下がる年もあります。
例えば、米国の代表的な株価指数であるS&P500の配当込み年間収益率は、2008年にマイナス37%、2022年にもマイナス18%ほどとなりました。その一方で、2009年には約26%、2019年には約31%上昇しています。
長期的な平均値は、このような大きな上昇と下落をすべて含めた結果です。
私たちが実際に経験する相場は、平均値のような穏やかな道ではありません。上がったり下がったりしながら、ときには足元が見えなくなるような谷を通ります。
世界中に分散していても、半分近く下がることがある
「全世界株式なら、世界中に分散されているので安心だ」
そう考える人もいるかもしれません。
確かに、一つの企業、一つの業種、一つの国だけに投資する場合と比べれば、世界株式への分散投資はリスクを抑える有力な方法です。
世界の先進国と新興国の大型・中型株を対象とするMSCI ACWIは、世界の投資可能な株式市場のおよそ85%をカバーしています。
それほど広く分散された指数でも、2007年10月から2009年3月の世界金融危機では、最大約58%下落しました。
仮に1,000万円を投資していたとすれば、評価額が一時的に420万円ほどまで減る計算です。
もちろん、実際の投資信託では為替や手数料などの影響もあるため、値動きが指数と完全に一致するわけではありません。それでも、全世界に分散すれば大きく下がらない、ということではないのです。
分散投資は、損失をなくす仕組みではありません。
一つの企業や国に将来を委ねず、世界経済全体の回復と成長を待つための仕組みです。
暴落の後、市場は回復してきた
世界金融危機、ITバブルの崩壊、コロナショックなど、株式市場はこれまで何度も大きく下落しました。
2020年のコロナショックでは、S&P500はわずか一か月ほどの間に約34%下落しました。しかし、その後は経済対策や企業活動の回復などを背景に反発しました。
長期チャートを現在から振り返ると、こうした暴落も、小さなくぼみのように見えることがあります。
ところが、暴落の最中にいる投資家には、その先のチャートは見えません。
感染症がいつ収束するのか。
金融機関の破綻がどこまで広がるのか。
戦争や物価上昇が経済にどのような影響を与えるのか。
将来が分からないからこそ、株価は下がります。
過去のチャートを見ながら「ここで買えばよかった」と言うことはできます。しかし、その時点で本当に買い、さらに持ち続けることは、まったく別の問題です。
「いつか回復する」と「待てる」は同じではない
過去の主要な株価指数には、大幅な下落から最高値を更新してきた実績があります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
すべての指数が必ず回復するとは限りません。また、回復するとしても、それがいつになるかは事前には分かりません。
そのことを示す代表的な例が、日経平均株価です。
日経平均は1989年12月に3万8,915円の終値を付けました。その後、バブル崩壊によって大幅に下落し、この終値を上回ったのは2024年2月でした。
回復まで、およそ34年かかったことになります。
その間に配当を受け取った場合や、安い時期にも積み立てを続けた場合は、単純に指数だけを比較した結果とは異なります。それでも、一つの国の株式市場が、かつての高値を取り戻すまでに非常に長い時間を要した事実は軽視できません。
「持っていれば、いつか戻るかもしれない」
その“いつか”を、自分の人生の時間の中で待てるかどうか。
これは、特に退職後の投資では重要な問題です。
インデックス投資は、買うより持ち続ける方が難しい
相場が好調なときには、多くの人が自分を長期投資家だと考えます。
しかし、資産が30%、40%と減り始めると、心の中にさまざまな声が現れます。
「今回は、過去の暴落とは違うのではないか」
「まだ下がる前に売った方がよいのではないか」
「現金に戻し、底を確認してから買い直せばよいのではないか」
不安になって売却すること自体が、常に間違いなのではありません。近いうちに使うお金まで投資していたり、当初から無理のある資産配分だったりすれば、見直しが必要な場合もあります。
ただ、恐怖の中で売却し、株価が上がり始めても再び買えず、長期的な回復から取り残されることがあります。
インデックス投資は、商品を買ったところで完成するものではありません。
市場が大きく下がったときにも、自分の方針を守り、持ち続けられるかが問われます。
だから「投資は胆力」といわれるのでしょう。
胆力とは、歯を食いしばることではない
ただし、ここでいう胆力は、何があっても我慢する根性ではありません。
生活費まで投資して、資産が減っていく画面を見ながら耐えることでもありません。
本当に必要な胆力とは、
「恐怖を感じても、慌てて売らなくて済む状態を、平常時につくっておくこと」
ではないでしょうか。
株式が50%下落した場合、資産のすべてを株式で持っていれば、資産全体も約50%下がります。
一方、株式が資産の50%で、残りを現金などで保有していれば、単純計算による資産全体の下落は約25%です。
どちらが正しいということではありません。
自分がどの程度の下落なら受け止められるかによって、適切な資産配分は異なります。
生活防衛資金を確保する。
近いうちに使う予定のお金は投資しない。
一つの国や業種に集中しすぎない。
自分が耐えられる範囲まで株式の比率を抑える。
こうした準備があるからこそ、暴落時にも慌てずにいられます。
胆力は、生まれつきの精神力だけで決まるものではありません。
現金、分散、投資期間、無理のない投資額によって支えられるものです。
退職後は「回復を待てる仕組み」をつくる
現役世代であれば、株価が下がっても、給与から積み立てを続けることができます。安くなった株式を買い続ける時間もあります。
しかし、退職後は、保有資産から生活費を取り崩す場面が増えていきます。
株価が大きく下がった時期に、生活費のために株式を売却すると、その後の回復に参加する資産まで減ってしまいます。
だからこそ退職後は、「いずれ戻るだろう」と考えるだけでは十分ではありません。
株価の回復を待つ間、何年分の生活費を現金などで確保しておくのか。年金収入で、日常の支出をどこまで賄えるのか。株式を取り崩さなくても生活できる期間を、どの程度つくれるのか。
そうした生活設計と投資を一緒に考える必要があります。
まとめ――胆力は、準備から生まれる
過去の主要な株価指数は、戦争、恐慌、金融危機、感染症などを経験しながら、長期的には成長してきました。
しかし、過去に回復したという事実は、未来の回復を保証するものではありません。回復するとしても、それまでに何年かかるかは分かりません。
インデックス投資に必要な胆力とは、未来を楽観し、何があっても持ち続ける強さではありません。
下落が起こることをあらかじめ受け入れ、それでも生活を守れるように準備し、自分で決めた方針を簡単には見失わないことです。
相場に耐えるのではなく、耐え続けなくてもよい資産配分をつくる。
投資の胆力は、そこから生まれるのだと思います。
※本記事は、投資に関する一般的な情報を整理したものであり、特定の金融商品の購入や売却を勧めるものではありません。投資には元本割れの可能性があります。


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