第5回 家は建てた後もお金がかかる『人生後半の自由を守るマネーリテラシー』

お金と備え

「人生後半の自由を守るマネーリテラシー」シリーズの第5回です。
今回は、住まいの購入費や維持費、住宅ローン、リフォーム、維持費などを通して、人生後半の自由を守る家との付き合い方を考えます。

家は、建てたときに完成するものではない


家を建てる、あるいは購入することは、多くの人にとって人生で最も大きな買い物です。

間取りを考え、住宅ローンを組み、新しい暮らしを始める。その時点では、無事に家を手に入れることが大きな目標になります。

けれど、家のお金は、購入したときに終わるわけではありません。

住宅ローンの返済中にも、建物や設備は少しずつ古くなります。屋根や外壁、給湯器、水回りなどには、いつか修理や交換が必要になります。

ローンを払い終えた後も、固定資産税、火災保険、修繕費、光熱費などは続きます。

年齢を重ねれば、段差の解消や手すりの設置、浴室やトイレの改修、断熱性の向上などが必要になることもあります。

家は、建てたときに完成して、そのまま一生使えるものではありません。

家族の形、収入、体力、寿命の変化に合わせて、長く住み続けられるよう整えていくものです。

かつての住宅取得モデルが合わないこともある

かつては、若いうちに住宅ローンを組んで家を建て、収入の上昇とともに返済負担が軽くなり、退職までに完済するという人生設計が一つのモデルでした。

退職金や貯蓄で外壁や屋根を修繕し、その後は子どもが家を継ぐ。二世代で住宅ローンを返す仕組みもありました。

しかし現在は、このモデルがすべての家庭に当てはまるとは限りません。

大きな昇給を前提にしにくい。転職や働き方の変化がある。子どもは独立して別の地域に住む。退職後も住宅ローンが残る。

その一方で、ローンの完済時期が近づく頃には、家にもまとまった修繕が必要になることがあります。

これから家を建てる世代も、すでに家を持っている世代も、これまでの人生設計をそのまま前提にするのではなく、自分たちの暮らしに合わせて考え直す必要があります。

借りられる金額と、返し続けられる金額は違う

住宅を購入するとき、金融機関から提示される借入可能額は大きな判断材料になります。

しかし、借りられる金額と、無理なく返し続けられる金額は同じではありません。

住宅ローンの返済中にも、生活にはさまざまな変化があります。

子どもの教育費が増えるかもしれません。家族が病気になることもあります。転職、介護、収入の減少なども考えられます。

変動金利で借りている場合は、将来の金利上昇によって返済負担が増える可能性もあります。

住宅ローンを考えるときには、現在の収入で毎月払えるかだけでなく、

・収入が減っても返済を続けられるか
・教育費や介護費と重なっても大丈夫か
・退職するまでに、どれだけ残るか
・どちらか一人の収入になった場合にも対応できるか

を確認したいところです。

家計に余裕がなければ、修繕が必要になっても先送りせざるを得ません。

購入時に限界まで借りないことは、将来の家を守る余白を残すことでもあります。

住宅ローンを返している間にも、家は古くなる

住宅ローンは、30年、35年、場合によってはそれ以上の期間をかけて返済します。

その間、家の状態が変わらないわけではありません。

外壁や屋根は、日光、雨、風にさらされます。給湯器、エアコン、換気設備、水回りなどにも寿命があります。

ローンを返している途中に、設備の交換や修繕が必要になるのは珍しいことではありません。

ここで大切なのは、修繕費を「突然起きた不運な出費」と考えないことです。

家は使えば傷みます。設備はいつか交換します。

時期や金額を正確に予測することは難しくても、将来発生する可能性の高い費用として準備することはできます。

戸建て住宅には、マンションの修繕積立金のように自動的に積み立てる仕組みがありません。

だからこそ、自分で住宅用の積立をつくる必要があります。

月々の住宅ローンだけを住居費と考えず、固定資産税、保険料、将来の修繕費も含めて、家にかかるお金を考えます。

修繕は、壊れてから考えると高くなることがある

雨漏りや腐食などは、目に見える症状が出たときには、内部まで傷みが広がっていることがあります。

小さな不具合の段階で対応できれば、工事の範囲を抑えられる場合があります。

そのため、家を長く使うには、修理だけでなく点検も必要です。

外壁、屋根、防水、床下、水回りなどを定期的に確認し、不具合の兆候を早めに見つけます。

中古住宅を購入するときや、大きなリフォームを考えるときには、建築士などによる住宅診断、インスペクションを利用する方法もあります。

見た目をきれいにする前に、建物の状態を知る。

これも、不要な工事を避け、本当に必要な部分へお金を使うためのマネーリテラシーです。

リフォームは、優先順位を決める

リフォームというと、新しいキッチン、広い浴室、美しい内装などを思い浮かべます。

暮らしを楽しむための改修にも大きな価値があります。

ただし、予算に限りがある場合は、生活と健康を守る工事から優先順位を考えます。

最初に確認したいのは、雨漏り、構造、防水、給排水、電気設備など、家の安全や機能に関わる部分です。

次に、断熱、段差、浴室やトイレ、手すり、照明など、年齢を重ねた後の健康と暮らしやすさを考えます。

その後で、内装や設備のデザイン、部屋の広さなどを検討します。

特に断熱は、単に光熱費を抑えるためだけのものではありません。

冬の暖かい居間と寒い廊下、浴室、トイレとの大きな温度差は、体への負担になります。

窓や床、天井などの断熱性を改善し、家の中の温度差を小さくすることは、年齢を重ねた後の健康を守ることにもつながります。

リフォームは、古い家を新しく見せることだけではありません。

安全に、暖かく、少ない負担で暮らせる家へ整えることです。

大きな工事ほど、一社だけで決めない

住宅の修繕やリフォームは、専門知識がないと工事内容や価格を判断しにくい分野です。

「今すぐ直さないと危険です」と言われ、不安になって契約してしまうこともあります。

大きな工事では、可能であれば複数の事業者から見積もりを取り、工事の範囲や材料、保証内容を比較します。

見積金額だけでなく、

・なぜその工事が必要なのか
・どの部分を、どの方法で直すのか
・追加費用が生じる可能性があるか
・工事後の保証はどうなっているか
・補助金を使える可能性があるか

を確認します。

安い見積もりが必ずよいとも、高い見積もりが必ず安心とも限りません。

分からない言葉をそのままにせず、説明を求め、一度持ち帰って考えることが大切です。

火災保険で守れるものと、自分で備えるもの

火災保険は、名前の印象から、火事だけに備える保険だと思われることがあります。

実際には、契約内容によって、風災、水災、雪災、盗難などによる損害も補償される場合があります。

ただし、すべての住宅損害が火災保険で直せるわけではありません。

長年使用したことによる外壁や屋根の劣化、古くなった給湯器の故障、通常の摩耗などは、基本的に自分で備える維持費です。

火災保険は、契約で定められた偶然の事故による損害に備えるものです。

保険で守る事故と、自分で積み立てる修繕費を分けて考えます。

また、住宅を購入したときから同じ火災保険を続けている場合は、現在の建築費や家財、地域の災害リスクに合っているかを確認します。

保険料だけで選ばず、何が補償され、何が補償されないのかを見ることが大切です。

マンションにも、建てた後のお金がかかる

マンションでは、毎月、管理費や修繕積立金を支払います。

修繕積立金があるから、将来の費用はすべて安心とは限りません。

建築費や人件費の上昇、建物や設備の状態、当初の積立金額などによっては、修繕積立金の値上げや、一時金の負担が必要になることもあります。

マンションを購入するときには、室内の間取りや価格だけでなく、

・現在の修繕積立金はいくらか
・今後、値上げの予定があるか
・長期修繕計画が作成され、見直されているか
・積立金の残高や滞納状況はどうか
・近い将来に大規模修繕が予定されているか

を確認する必要があります。

マンションでは、自分の住戸だけでなく、建物全体を共同で維持します。

ローンを完済した後も、管理費と修繕積立金の負担は続きます。

夫婦二人から、一人になった後も住み続けられるか

夫婦二人の年金や収入では維持できていた家も、どちらか一人になれば、家計の条件が変わります。

世帯収入は減っても、固定資産税、火災保険、屋根や外壁の修繕費が半分になるわけではありません。

広い家の掃除や庭の手入れ、階段の上り下りが、体力的な負担になることもあります。

家を選ぶとき、あるいはリフォームするときには、現在の家族全員が暮らす姿だけでなく、一人になった後の暮らしも少し考えておきたいところです。

不安を抱え続けるということではありません。

一階だけでも生活できる間取りにする。維持の難しい設備を減らす。元気なうちに小さな家への住み替えを調べる。売却や賃貸の可能性を確認しておく。

選択肢を知っておくことが、将来の安心につながります。

子どもが継ぐことを前提にしすぎない

家を建てるとき、「いずれ子どもが住むだろう」と考えることがあります。

しかし、子どもには子どもの仕事や家庭、暮らしたい地域があります。

家を継いでくれる可能性はあっても、それだけを将来設計の前提にはできません。

子どもが住まなかった場合にも、維持できるか。売却できるか。貸すことができるか。解体や相続にどのようなお金がかかるか。

家を購入するときから、最後まで自分たちで管理する可能性も考えておく必要があります。

家を残すことが、必ずしも子どもの助けになるとは限りません。

管理しやすく、将来の使い道を選べる家にしておくことも、大切な備えです。

建てる、直す、住み替える、手放す

住まいの選択は、今の家に一生住み続けることだけではありません。

必要な部分を修繕して住み続ける。家の一部だけを使う。小さな住宅へ住み替える。利便性の高い地域へ移る。家を売却する。

どの選択が正しいかは、家族の状況、健康、収入、地域とのつながりによって違います。

大切なのは、修繕できなくなるまで、あるいは生活が苦しくなるまで何も考えないことではありません。

元気で、判断する余力があるうちに、自分の家の状態と費用、将来の選択肢を確認しておくことです。

家を手放すことは、人生の失敗ではありません。

反対に、無理をして持ち続けることだけが、家を大切にすることでもありません。

自分たちが安心して暮らせる場所を守ることが、最も大切です。

まとめ――建てられるかではなく、長く住み続けられるか

家には、家族との思い出、安心、自由、地域とのつながりなど、お金だけでは測れない価値があります。

だからこそ、購入できるか、住宅ローンを払えるかだけで決めるのではなく、その後の暮らしまで考える必要があります。

住宅ローンを返している間にも家は古くなります。

完済後も、固定資産税、保険、管理、修繕の費用は続きます。

年齢を重ねれば、安全性、断熱性、段差、広さ、立地など、住まいに求めるものも変わります。

住宅のマネーリテラシーとは、いくらの家を買えるかを知ることだけではありません。

人生の変化に備えながら、住み続ける場所を守る知恵を持つことです。

建てられるかではなく、長く住み続けられるかまで考えて家を選ぶ。

今ある家についても、長く住み続けられるよう、必要なところから少しずつ整えていく。

住まいを守ることは、安全と健康を守り、自分らしく暮らす場所を守ることでもあります。

それは、年齢を重ねても一人ひとりが尊厳を保ちながら生きるための、大切な備えなのだと思います。

※住宅ローン、保険、修繕、リフォームの条件は、住宅の構造、築年数、地域、契約内容などによって異なります。大きな契約や工事を行う際は、複数の情報を比較し、必要に応じて金融機関、保険会社、建築士などの専門家へ確認してください。

このシリーズについて
人生後半の自由を守るマネーリテラシーシリーズ
「その支出は、これからの人生を支えていますか」をテーマに、見栄や不安からの支出を選び直すための考え方を扱います。
第1回 人生後半の自由を守るマネーリテラシー『見栄と不安からの支出を選び直す
第2回 高い車が悪いのではない。固定費化は、自由を削る。見栄ではなく、人生を運ぶ車を選ぶ
第3回 保険は安心を買うもの、入りすぎると暮らしを削る。
第4回 投資信託(インデックスファンド)は味方にもなる。手数料には注意
第5回 家は建てた後もお金がかかる
第6回 お墓・お寺・葬儀にかかるお金

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