「人生後半の自由を守るマネーリテラシー」シリーズの第4回です。
「その資産は、これからの人生を支えていますか」をテーマに、資産管理を選び直すための考え方を扱います。
人生が長くなれば、お金を使う期間も長くなる
かつての老後設計は、60歳前後で定年を迎え、退職金を定期預金に置き、年金と預貯金の取り崩しで暮らす形が一般的でした。
退職金は、住宅の修繕、車や家電の買い替え、医療や介護などに備える大切なお金です。
しかし、人生が長くなれば、退職後のお金を使う期間も長くなります。
預貯金は、必要なときに使いやすく、価格が上下しない大切な置き場所です。その一方で、物価が上昇すれば、同じ100万円で買えるものは少なくなります。
そこで考えたいのが、すべてを預貯金に置くのでも、すべてを投資に回すのでもなく、使う時期と目的によって、お金の置き場所を分けることです。
預貯金と投資は、どちらか一つではない
まず、近いうちに使うお金は、預貯金で確保します。
たとえば、当面の生活費、医療や介護への備え、住宅の修繕費、車や家電の買い替え費用などです。
こうしたお金を値動きのある商品に入れてしまうと、必要なときに相場が下落しているかもしれません。
一方、10年、20年と使う予定のない資産の一部については、投資信託で運用することも選択肢になります。
預貯金には、暮らしの足元を守る役割があります。投資には、長い時間をかけて、企業や経済の成長を資産に取り込む役割があります。
預金か投資かを一つに決めるのではありません。
近く使うお金は守り、長く使わないお金の一部を育てる。そのように役割を分けることが大切です。
投資信託とは何か
投資信託とは、多くの人から集めた資金をまとめ、運用会社が株式や債券などに投資する金融商品です。
一つの投資信託を購入することで、多くの企業や国・地域に分散して投資できます。
一社の個別株だけを持つ場合、その会社の業績が資産全体に大きく影響します。広く分散された投資信託であれば、一つの会社の不振による影響を小さくできます。
ただし、投資信託は預金ではありません。
価格は上がることも下がることもあり、元本が保証されているわけではありません。
「投資信託だから安心」と考えるのではなく、何に投資しているのか、どの程度の値動きがあるのか、いくら費用がかかるのかを確認する必要があります。
インデックスファンドは、市場全体を持つ考え方
投資信託には、代表的なものとして、インデックスファンドとアクティブファンドがあります。
インデックスファンドは、S&P500、全世界株式、日経平均など、特定の指数に連動することを目指します。
市場平均を上回る会社を当て続けるのではなく、市場を構成する多くの企業をまとめて保有する考え方です。
たとえば、S&P500に連動する商品は、米国を代表する大型企業を中心に投資します。全世界株式型は、米国を含む世界各国の企業へ、より広く分散します。
どの指数が必ず優れているとは言い切れません。
大切なのは、
・仕組みを理解できる
・十分に分散されている
・手数料が低い
・長く保有できる
という点です。
個別株の将来を当て続けることは簡単ではありません。市場全体を低コストで持つインデックス投資は、投資を生活防衛の一部として考える人にとって、分かりやすい選択肢の一つです。
複利は、時間を味方にする
投資によって得た利益を使わず、再び運用すると、元本と利益の両方から次の利益が生まれます。
これが複利です。
複利の力を簡単に理解する方法として、「72の法則」があります。
72を想定する年平均収益率で割ると、資産が約2倍になるまでの年数の目安が分かります。
年平均6%と仮定すれば、72÷6で約12年。
年平均8%と仮定すれば、72÷8で約9年です。
仮に100万円を年平均8%で9年間運用できたとすれば、計算上は約200万円になります。
ただし、これは毎年8%ずつ増えるという意味ではありません。
株式市場には、大きく上昇する年もあれば、大きく下落する年もあります。手数料や税金もかかり、必要な時期に相場が下がっていることもあります。
「年8%の金利が付く」のではなく、「年平均8%で運用できたと仮定した計算」です。
複利は将来の利益を約束するものではありません。時間の長さが資産に与える影響を理解するための考え方です。
手数料は、運用成果を静かに削る
投資信託を選ぶとき、過去の値上がりや人気ランキングに目が向きがちです。
しかし、長期保有では、手数料の確認が欠かせません。
主な費用には、購入時手数料と信託報酬があります。
購入時手数料は、投資信託を買うときにかかる費用です。購入時手数料が2%なら、100万円を支払っても、単純に考えれば運用に回るのは約98万円からです。
現在は、購入時手数料が無料の「ノーロード」と呼ばれる商品も数多くあります。
信託報酬は、投資信託を保有している間、運用や管理のために継続して差し引かれる費用です。
口座から別に請求されるのではなく、投資信託の資産から少しずつ差し引かれるため、負担が見えにくい特徴があります。
年0.1%と年2%では、数字だけを見ると小さな違いに感じるかもしれません。
しかし、資産額が大きくなり、保有期間が長くなるほど、その差は広がります。
仮に運用前の収益率を年5%とすると、信託報酬が年0.1%なら概算で年4.9%、年2%なら概算で年3%が残る計算です。
実際の運用はこれほど単純ではありませんが、手数料が毎年差し引かれることは変わりません。
複利が資産を育てる一方で、高い手数料は複利の効果を弱めます。
投資信託を味方にできるかどうかは、どの商品が値上がりするかだけでなく、費用を理解しているかにも左右されます。
窓口で勧められても、その場で決めない
銀行、証券会社、郵便局、農協などの窓口では、さまざまな投資信託が販売されています。
担当者が親切であっても、その商品が自分に最も適しているとは限りません。
購入する前には、少なくとも、
・何に投資している商品か
・購入時手数料はいくらか
・信託報酬は年何%か
・同じような内容で、より低コストの商品はないか
・どの程度値下がりする可能性があるか
を確認します。
毎月分配金を受け取れる商品も魅力的に見えますが、分配金がすべて運用利益から支払われているとは限りません。自分の元本を取り崩している場合もあります。
お金が毎月振り込まれているから、資産が増えているとは限らないのです。
「銀行が扱っているから安心」「勧められたから間違いない」と考えず、一度持ち帰って比較することが大切です。
仕組みを自分で説明できない商品は、無理に買わなくてもよいと思います。
退職金は、若い世代の積立資金とは違う
若い時期の積立投資は、値下がりしても、その後の労働収入で積み立てを続けられる可能性があります。
しかし、退職金は、大きく減らした後に働いて取り戻すことが難しい大切な資産です。
そのため、退職金を受け取ったからといって、まとめて株式投資信託へ入れることは慎重に考える必要があります。
まず、当面の生活費、医療や介護への備え、住宅修繕費、車や家電の買い替え費用を預貯金で確保します。
そのうえで、長期間使わない資産の一部について、値下がりに耐えられる範囲で投資を検討します。
退職直後に相場が大きく下落し、その時期に生活費を取り崩すと、資産が回復する前に保有資産を減らしてしまいます。
退職後の運用では、どれだけ増やせるかよりも、相場が悪いときにも暮らしを維持できるかを先に考えることが大切です。
長期・分散・低コスト
投資信託を生活防衛の一部として使うなら、基本となるのは、長期・分散・低コストです。
長期とは、短期間の値上がりを狙うのではなく、企業や経済の成長を時間をかけて受け取ることです。ただし、近く使うお金は投資しません。
分散とは、一つの会社、一つの業種、一つの国だけに集中させないことです。広く分散された投資信託を選び、預貯金も残します。
低コストとは、同じ指数に連動する商品であれば、購入時手数料や信託報酬を比較することです。
運用成果は予測できませんが、手数料はあらかじめ確認できます。
そして、もう一つ大切なのが、無理をしないことです。
相場が下落したときに眠れなくなるほど投資しない。生活に必要なお金まで投資しない。
自分が値下がりに耐えられる範囲で続けることが、長期投資の条件です。
まとめ――投資信託を味方にするために
投資信託は、少ない金額から多くの企業や地域へ分散できる便利な仕組みです。
長く保有すれば、企業の成長や複利を資産形成に生かせる可能性があります。
一方で、元本は保証されません。高い手数料、複雑な商品、偏った投資、近く使うお金まで回してしまう運用は、暮らしを守るはずの資産を減らす原因になります。
投資信託を味方にするために、特別な商品を探す必要はありません。
当面使うお金を預貯金で確保する。
長期間使わない資産の一部で考える。
広く分散する。
手数料を抑える。
無理なく長く続ける。
人生100年時代の資産運用で大切なのは、資産を最大限に増やすことだけではありません。
必要なときに使えるお金を残しながら、人生後半の暮らしを長く支えられる形に整えることです。
投資をするかどうかは、自分で決めるものです。
しかし、投資信託の仕組みと手数料を知っておくことは、投資をする人にも、しない人にも、お金を守るための大切な備えになります。
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※本記事は、投資信託の仕組みや考え方を学ぶためのもので、特定の金融商品を推奨するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。商品の内容、費用、リスクを確認し、ご自身の資産状況や生活設計に合わせて判断してください。
このシリーズについて
人生後半の自由を守るマネーリテラシーシリーズ
「その支出は、これからの人生を支えていますか」をテーマに、見栄や不安からの支出を選び直すための考え方を扱います。
第1回 人生後半の自由を守るマネーリテラシー『見栄と不安からの支出を選び直す』
第2回 高い車が悪いのではない。固定費化は、自由を削る。見栄ではなく、人生を運ぶ車を選ぶ
第3回 保険は安心を買うもの、入りすぎると暮らしを削る。
第4回 投資信託(インデックスファンド)は味方にもなる。手数料には注意して
第5回 家は建てた後もお金がかかる
第6回 お墓・お寺・葬儀にかかるお金


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